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綸(いと)

作家:

坂口恭平

会期:

4月29日(土) − 5月21日(日)

今年でTraxでの展示も8回目になります。8年前、Traxでやると決まってから、僕は毎日絵を描くようになりました。アクリルで日記のように抽象画を描くことからはじめて800枚くらい描いたあと、畑をはじめて、帰り道に、今までずっと僕の目の前に広がっていた風景と出会い、ほんと風景っていつでも気づいてくれるまで待ってくれているものです、そして、僕はパステルを使って、自分が暮らしている目の前の風景を描くようになりました。

 パステルをはじめてまもなく丸三年が経ちます。もうすぐ1000枚に到達します。絵を毎日、描く中で、躁鬱病で困っていた僕は少しずつ回復する方法を身につけ、今では病を過ぎ去り、僕にとって、なくてはならない大事な生活のリズムになっています。

 今年の2月には熊本市現代美術館で僕の3年間のパステル画の集大成とも言える大規模な個展を開催しました。1000枚のうち、700枚が日本全国から一堂に集まったのです。昔、僕はいつも、友人たちに「自分が何を描いているのかよくわからない」と困った顔で相談していました。でも、一堂に集まった、毎日描いてきた絵を見て、僕は、とても心が穏やかになりました。そして、内奥から元気な力が湧き上がってきたんです。死ぬまでずっと絵を描いていきたいと素直に思いました。もうわからないとは思いませんでした。わかったわけでもないんですけど。絵を描きたい、と今はただひたすらそう思ってます。

 そして、Traxでの新作展がはじまります。また新しい気持ちになってます。

 今回は、パステル画を中心に、最近楽しくなってきている油絵のシリーズ、さらに僕の絵を図案にしたテキスタイルもお披露目できると思います。次の試みとしては、それで服を作ってみようとも考えてます。畑の土を使った陶芸作品や、石の彫刻まで、僕の中から出てきた、いろんな粒々たちが集まります。僕は絵だけでなく、文章や音楽などさまざまな方法で、目には見えないけど大きな織物を作っているような気持ちでいます。目には見えないけど、それを作っているのが、今、わかります。

 そういう気持ちも込めて、タイトルを「綸(いと)」と名付けました。僕の織物がみなさんにも感じられると、僕はとても嬉しいです。遊びに来てください。

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